返回
朗读
暂停
+书签

视觉:
关灯
护眼
字体:
声音:
男声
女声
金风
玉露
学生
大叔
司仪
学者
素人
女主播
评书
语速:
1x
2x
3x
4x
5x

上一页 书架管理 下一章
二 - 14
主人が眼をぱちつかせて問う。

    「そこまで行こうとは思わなかった」と迷亭が自分の鼻の頭をちょいとつまむ。

    「飛び込んだ後(あと)は気が遠くなって、しばらくは夢中でした。やがて眼がさめて見ると寒くはあるが、どこも濡(ぬ)れた所(とこ)も何もない、水を飲んだような感じもしない。たしかに飛び込んだはずだが実に不思議だ。こりゃ変だと気が付いてそこいらを見渡すと驚きましたね。水の中へ飛び込んだつもりでいたところが、つい間違って橋の真中へ飛び下りたので、その時は実に残念でした。前と後(うし)ろの間違だけであの声の出る所へ行く事が出来なかったのです」寒月はにやにや笑いながら例のごとく羽織の紐(ひも)を荷厄介(にやっかい)にしている。

    「ハハハハこれは面白い。僕の経験と善く似ているところが奇だ。やはりゼームス教授の材料になるね。人間の感応と云う題で写生文にしたらきっと文壇を驚かすよ。……そしてその○○子さんの病気はどうなったかね」と迷亭先生が追窮する。

    「二三日前(にさんちまえ)年始に行きましたら、門の内で下女と羽根を突いていましたから病気は全快したものと見えます」

    主人は最前から沈思の体(てい)であったが、この時ようやく口を開いて、「僕にもある」と負けぬ気を出す。

    「あるって、何があるんだい」迷亭の眼中に主人などは無論ない。

    「僕のも去年の暮の事だ」

    「みんな去年の暮は暗合(あんごう)で妙ですな」と寒月が笑う。欠けた前歯のうちに空也餅(くうやもち)が着いている。

    「やはり同日同刻じゃないか」と迷亭がまぜ返す。
上一页 书架管理 下一章

首页 >吾輩は猫である简介 >吾輩は猫である目录 > 二 - 14