三 - 2
は、鼠(ねずみ)は取れそうもない、……どうです奥さんこの猫は鼠を捕りますかね」と吾輩ばかりでは不足だと見えて、隣りの室(へや)の妻君に話しかける。「鼠どころじゃございません。御雑煮(おぞうに)を食べて踊りをおどるんですもの」と妻君は飛んだところで旧悪を暴(あば)く。吾輩は宙乗(ちゅうの)りをしながらも少々極りが悪かった。迷亭はまだ吾輩を卸(おろ)してくれない。「なるほど踊りでもおどりそうな顔だ。奥さんこの猫は油断のならない相好(そうごう)ですぜ。昔(むか)しの草双紙(くさぞうし)にある猫又(ねこまた)に似ていますよ」と勝手な事を言いながら、しきりに細君(さいくん)に話しかける。細君は迷惑そうに針仕事の手をやめて座敷へ出てくる。