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九 - 12
、因果となってかように子に酬(むく)ったのかも知れない。まことに気の毒な至りである。

    巡査はおかしかったと見えて、にやにや笑いながら「あしたね、午前九時までに日本堤(にほんづつみ)の分署まで来て下さい。――盗難品は何と何でしたかね」

    「盗難品は……」と云いかけたが、あいにく先生たいがい忘れている。ただ覚えているのは多々良三平(たたらさんぺい)の山の芋だけである。山の芋などはどうでも構わんと思ったが、盗難品は……と云いかけてあとが出ないのはいかにも与太郎(よたろう)のようで体裁(ていさい)がわるい。人が盗まれたのならいざ知らず、自分が盗まれておきながら、明瞭の答が出来んのは一人前(いちにんまえ)ではない証拠だと、思い切って「盗難品は……山の芋一箱」とつけた。

    泥棒はこの時よほどおかしかったと見えて、下を向いて着物の襟(えり)へあごを入れた。迷亭はアハハハと笑いながら「山の芋がよほど惜しかったと見えるね」と云った。巡査だけは存外真面目である。

    「山の芋は出ないようだがほかの物件はたいがい戻ったようです。――まあ来て見たら分るでしょう。それでね、下げ渡したら請書(うけしょ)が入るから、印形(いんぎょう)を忘れずに持っておいでなさい。――九時までに来なくってはいかん。日本堤(にほんづつみ)分署(ぶんしょ)です。――浅草警察署の管轄内(かんかつない)の日本堤分署です。――それじゃ、さようなら」と独(ひと)りで弁じて帰って行く。泥棒君も続いて門を出る。手が出せないので、門をしめる事が出来ないから開け放しのまま行ってしまった。恐れ入りながらも不平と見えて、主人は頬をふくらして、ぴしゃりと立て切った。

    「アハハハ君は刑事を大変尊敬するね。つねにああ云う恭謙(きょうけん)な態度を持ってるといい男だが、君は巡査だけに鄭寧(ていねい)なんだから困る」

    「だってせっかく知らせて来てくれたんじゃないか」

    「知らせに来るったって、先は商売だよ。当り前にあしらってりゃ沢山だ」

    「しかしただの商売じゃない」

    「無論ただの商売じゃない。探偵と云ういけすかない商売さ。あたり前の商売より下等だね」

    「君そんな事を云うと、ひどい目に逢うぜ」

    「ハハハそれじゃ刑事の悪口(わるくち)はやめにしよう。しかし刑事を尊敬するのは、まだしもだが、泥棒を尊敬するに至っては、驚かざるを得んよ」

    「誰が泥棒を尊敬したい」

    「君がしたのさ」

    「僕が泥棒に近付きがあるもんか」

    「あるもんかって君は泥棒にお辞儀をしたじゃないか」

    「いつ?」

    「たった今平身低頭(へいしんていとう)したじゃないか」

    「馬鹿あ云ってら、あれは刑事だね」

    「刑事があんななりをするものか」

    「刑事だからあんななりをするんじゃないか」

    「頑固(がんこ)だな」

    「君こそ頑固だ」

    「まあ第一、刑事が人の所へ来てあんなに懐手(ふところで)なんかして、突立(つった)っているものかね」

    「刑事だって懐手をしないとは限るまい」

    「そう猛烈にやって来ては恐れ入るがね。君がお辞儀をする間あいつは始終あのままで立っていたのだぜ」

    「刑事だからそのくらいの事はあるかも知れんさ」

    「どう
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