十 - 5
も)らされた米粒は黄色な汁と相和して鼻のあたまと頬(ほ)っぺたと顋(あご)とへ、やっと掛声をして飛びついた。飛びつき損じて畳の上へこぼれたものは打算(ださん)の限りでない。随分無分別な飯の食い方である。吾輩は謹(つつし)んで有名なる金田君及び天下の勢力家に忠告する。公等(こうら)の他をあつかう事、坊ばの茶碗と箸をあつかうがごとくんば、公等(こうら)の口へ飛び込む米粒は極めて僅少(きんしょう)のものである。必然の勢をもって飛び込むにあらず、戸迷(とまどい)をして飛び込むのである。どうか御再考を煩(わずら)わしたい。世故(せこ)にたけた敏腕家にも似合しからぬ事だ。