十 - 9
も容易(たやす)い事のように受合ったそうです」
「その法螺を吹く人は何をしたんです」
「それが面白いのよ。最初にはね巡査の服をきて、付(つ)け髯(ひげ)をして、地蔵様の前へきて、こらこら、動かんとその方のためにならんぞ、警察で棄てておかんぞと威張って見せたんですとさ。今の世に警察の仮声(こわいろ)なんか使ったって誰も聞きゃしないわね」
「本当ね、それで地蔵様は動いたの?」
「動くもんですか、叔父さんですもの」
「でも叔父さんは警察には大変恐れ入っているのよ」
「あらそう、あんな顔をして?それじゃ、そんなに怖(こわ)い事はないわね。けれども地蔵様は動かないんですって、平気でいるんですとさ。それで法螺吹は大変怒(おこ)って、巡査の服を脱いで、付け髯を紙屑籠(かみくずかご)へ抛(ほう)り込んで、今度は大金持ちの服装(なり)をして出て来たそうです。今の世で云うと岩崎男爵のような顔をするんですとさ。おかしいわね」