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十 - 12
それどころではない、風呂敷包を解(と)いて皿眼(さらまなこ)になって、盗難品を検(しら)べている。「おや驚ろいた。泥棒も進歩したのね。みんな、解いて洗い張をしてあるわ。ねえちょいと、あなた」

    「誰が警察から油壺を貰ってくるものか。待ってるのが退屈だから、あすこいらを散歩しているうちに堀り出して来たんだ。御前なんぞには分るまいがそれでも珍品だよ」

    「珍品過ぎるわ。一体叔父さんはどこを散歩したの」

    「どこって日本堤(にほんづつみ)界隈(かいわい)さ。吉原へも這入(はい)って見た。なかなか盛(さかん)な所だ。あの鉄の門を観(み)た事があるかい。ないだろう」

    「だれが見るもんですか。吉原なんて賤業婦(せんぎょうふ)のいる所へ行く因縁(いんねん)がありませんわ。叔父さんは教師の身で、よくまあ、あんな所へ行かれたものねえ。本当に驚ろいてしまうわ。ねえ叔母さん、叔母さん」

    「ええ、そうね。どうも品数(しなかず)が足りないようだ事。これでみんな戻ったんでしょうか」

    「戻らんのは山の芋ばかりさ。元来九時に出頭しろと云いながら十一時まで待たせる法があるものか、これだから日本の警察はいかん」

    「日本の警察がいけないって、吉原を散歩しちゃなおいけないわ。そんな事が知れると免職になってよ。ねえ叔母さん」

    「ええ、なるでしょう。あなた、私の帯の片側(かたかわ)がないんです。何だか足りないと思ったら」

    「帯の片側くらいあきらめるさ。こっちは三時間も待たされて、大切の時間を半日潰(つぶ)してしまった」と日本服に着代えて平気に火鉢へもたれて油壺を眺(なが)めている。細君も仕方がないと諦(あきら)めて、戻った品をそのまま戸棚へしまい込(こ)んで座に帰る。
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