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十一 - 22
や、必然の害にあらずや、自然の誘惑にあらずや、蜜(みつ)に似たる毒にあらずや。もし女子を棄つるが不徳ならば、彼等を棄てざるは一層の呵責(かしゃく)と云わざるべからず。……」

    「もう沢山です、先生。そのくらい愚妻のわる口を拝聴すれば申し分はありません」

    「まだ四五ページあるから、ついでに聞いたらどうだ」

    「もうたいていにするがいい。もう奥方の御帰りの刻限だろう」と迷亭先生がからかい掛けると、茶の間の方で

    「清や、清や」と細君が下女を呼ぶ声がする。

    「こいつは大変だ。奥方はちゃんといるぜ、君」

    「ウフフフフ」と主人は笑いながら「構うものか」と云った。

    「奥さん、奥さん。いつの間(ま)に御帰りですか」

    茶の間ではしんとして答がない。

    「奥さん、今のを聞いたんですか。え?」

    答はまだない。
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