八 - 10
事を人に聞いて見る。
「そう急には、癒(なお)りません、だんだん利きます。今でももとより大分(だいぶ)よくなっています」
「そうですかな」
「やはり肝癪(かんしゃく)が起りますか」
「起りますとも、夢にまで肝癪を起します」
「運動でも、少しなさったらいいでしょう」
「運動すると、なお肝癪が起ります」
甘木先生もあきれ返ったものと見えて、
「どれ一つ拝見しましょうか」と診察を始める。診察を終るのを待ちかねた主人は、突然大きな声を出して、
「先生、せんだって催眠術のかいてある本を読んだら、催眠術を応用して手癖のわるいんだの、いろいろな病気だのを直す事が出来ると書いてあったですが、本当でしょうか」と聞く。