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九 - 5
与被成下候(なしくだされそろ)て御賛同の意を御表章被成下度(なしくだされたく)伏して懇願仕候(そろ) 々(そうそう)敬具

    大日本女子裁縫最高等大学院

    校長縫田針作(ぬいだしんさく)九拝

    とある。主人はこの鄭重(ていちょう)なる書面を、冷淡に丸めてぽんと屑籠(くずかご)の中へ抛(ほう)り込んだ。せっかくの針作君の九拝も臥薪甞胆も何の役にも立たなかったのは気の毒である。第三信にかかる。第三信はすこぶる風変りの光彩を放っている。状袋が紅白のだんだらで、飴(あめ)ん棒(ぼう)の看板のごとくはなやかなる真中に珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生虎皮下(こひか)と八分体(はっぷんたい)で肉太に認(したた)めてある。中からお太(た)さんが出るかどうだか受け合わないが表(おもて)だけはすこぶる立派なものだ。

    若(も)し我を以て天地を律すれば一口(ひとくち)にして西江(せいこう)の水を吸いつくすべく、若(も)し天地を以て我を律すれば我は則(すなわ)ち陌上(はくじょう)の塵のみ。すべからく道(い)え、天地と我と什麼(いんも)の交渉かある。……始めて海鼠(なまこ)を食い出(いだ)せる人は其胆力に於て敬すべく、始めて河豚(ふぐ)を喫(きつ)せる漢(おとこ)は其勇気に於(おい)て重んずべし。海鼠を食(くら)えるものは親鸞(しんらん)の再来にして、河豚(ふぐ)を喫せるものは日蓮(にちれん)の分身なり。苦沙弥先生の如きに至っては只(ただ)干瓢(かんぴょう)の酢味噌(すみそ)を知るのみ。干瓢の酢味噌を食(くら)って天下の士たるものは、われ未(いま)だ之(これ)を見ず。……

    親友も汝(なんじ)を売るべし。父母(ふぼ)も汝に私(わたくし)あるべし。愛人も汝を棄つべし。富貴(ふっき)は固(もと)より頼みがたかるべし。爵禄(しゃくろく)は一朝(いっちょう)にして失うべし。汝の頭中に秘蔵する学問には黴(かび)が生(は)えるべし。汝何を恃(たの)まんとするか。天地の裡(うち)に何をたのまんとするか。神?神は人間の苦しまぎれに捏造(でつぞう)せる土偶(どぐう)のみ。人間のせつな糞(ぐそ)の凝結せる臭骸のみ。恃(たの)むまじきを恃んで安しと云う。咄々(とつとつ)、酔漢漫(みだ)りに胡乱(うろん)の言辞を弄して、蹣跚(まんさん)として墓に向う。油尽きて灯(とう)自(おのずか)ら滅す。業尽きて何物をか遺(のこ)す。苦沙弥先生よろしく御茶でも上がれ。……
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