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上一章 书架管理 下一页
十 - 16
    「君遊びに来たのか」

    「そうじゃないんです」

    「それじゃ用事かね」

    「ええ」

    「学校の事かい」

    「ええ、少し御話ししようと思って……」

    「うむ。どんな事かね。さあ話したまえ」と云うと武右衛門君下を向いたぎり何(なん)にも言わない。元来武右衛門君は中学の二年生にしてはよく弁ずる方で、頭の大きい割に脳力は発達しておらんが、喋舌(しゃべ)る事においては乙組中鏘々(そうそう)たるものである。現にせんだってコロンバスの日本訳を教えろと云って大(おおい)に主人を困らしたはまさにこの武右衛門君である。その鏘々たる先生が、最前(さいぜん)から吃(どもり)の御姫様のようにもじもじしているのは、何か云(い)わくのある事でなくてはならん。単に遠慮のみとはとうてい受け取られない。主人も少々不審に思った。

    「話す事があるなら、早く話したらいいじゃないか」

    「少し話しにくい事で……」

    「話しにくい?」と云いながら主人は武右衛門君の顔を見たが、先方は依然として俯向(うつむき)になってるから、何事とも鑑定が出来ない。やむを得ず、少し語勢を変えて「いいさ。何でも話すがいい。ほかに誰も聞いていやしない。わたしも他言(たごん)はしないから」と穏(おだ)やかにつけ加えた。

    「話してもいいでしょうか?」と武右衛門君はまだ迷っている。

    「いいだろう」と主人は勝手な判断をする。

    「では話しますが」といいかけて、毬栗頭(いがぐりあたま)をむくりと持ち上げて主人の方をちょっとまぼしそうに見た。その眼は三角である。主人は頬をふくらまして朝日の煙を吹き出しながらちょっと横を向いた。

    「実はその……困った事になっちまって……」

    「何が?」

    「何がって、はなはだ困るもんですから、来たんです」

    「だからさ、何が困るんだよ」

    「そんな事をする考はなかったんですけれども、浜田(はまだ)が借せ借せと云うもんですから……」

    「浜田と云うのは浜田平助(へいすけ)かい」

    「ええ」

    「浜田に下宿料でも借したのかい」

    「何そんなものを借したんじゃありません」

    「じゃ何を借したんだい」

    「名前を借したんです」

    「浜田が君の名前を借りて何をしたんだい」

    「艶書(えんしょ)を送ったんです」

    「何を送った?」

    「だから、名前は廃(よ)して、投函役(とうかんやく)になると云ったんです」

    「何だか要領を得んじゃないか。一体誰が何をしたんだい」

    「艶書(えんしょ)を送ったんです」

    「艶書を送った?誰に?」

    「だから、話しにくいと云うんです」

    「じゃ君が、どこかの女に艶書を送ったのか」

    「いいえ、僕じゃないんです」

    「浜田が送ったのかい」

    「浜田でもないんです」

    「じゃ誰が送ったんだい」

    「誰だか分らないんです」

    「ちっとも要領を得ないな。では誰も送らんのかい」

    「名前だけは僕の名なんです」

    「名前だけは君の名だって、何の事だかちっとも分らんじゃないか。もっと条理を立てて話すがい
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